P:この家をアトリエ兼住居という形態にされた理由は何ですか?
アトリエ兼住居にしたかったのは、職場と家を一緒にすることでいつでも仕事ができるようにしたかったからです。出不精でサボり癖があるので通勤したくなかった(笑)。窯の焼成中に様子を見にいきたいとか、作品の乾燥具合を見てひっくり返したいとか、そういうのを朝昼夜関係無くやりたかったというのもあるので。深夜や早朝にパジャマで窯の蓋閉めにいけるのは最高です(笑)。ここは特に同じ敷地に2軒が連なっているので、母屋とアトリエを完全に分けることができて住居スペースに土を上げなくて良いのでそこもちょうどよかった。一つの土地に二つの家があるのが理想的でしたね。
P:改装される上で、業者さん探しはどうされたのでしょうか?
ここをやって頂いた工務店さんは、知り合いのバーのマスターから紹介してもらいました。改装するにあたって一般的には何社か見積もりを取るとか、見学に行くとかすると思うのですが、その時は自分で壁塗りたいとか床塗りたいとか、後から自分で棚を作りたいとか、細かいところばっかりに夢が膨らんで、肝心の業者さんについてはノープラン。お店に行った時にそんな話をしていたら、そのバーの改装をした工務店さんに相談してみては?とアドバイスをいただいて。マスターが連絡を入れてくださったのですが、その日にすぐ話を聞きに来てくれました。尾道市内の工務店さんでした。
P:補助金は何か活用されましたか?
「まちなみ形成事業補助金」が取れるということを渡邉さん(空き家バンク相談員)から教えてもらったのでそちらを利用しました。他にも色々あったみたいなのですが、併用できないものもあって、結局使ったのは1つだけでした。
建築士さんに調査して頂いて、補助金の審査が通りそうだということで話を工務店さんも交えて進めていきました。通り沿いの屋根を本瓦で直しましょうと話していたら、工務店さんに「本瓦での補修は値段も2倍近くかかるのにいいんですか?」、と驚かれました(笑)。でも、街並みを整えるための補助金も頂くから、ということで、通り沿いの屋根は本瓦で復活させました。もちろん、正面から見えない部分は普通の瓦を使って節約しましたけど。
P: この通り、長江通りはかつて本瓦の美しい町並みがありましたが、本瓦で改修している家はほとんどないですよね。だからこそ、この家のファサードが再生されて、今後も残り続けることに、とても意義があると思います。
P:再生資金として、融資などは受けられましたか?
リフォームローンで融資を受けました。なかなか職業的に借りにくかったのですが、3件目の銀行さんの担当の方によくして頂いて、運よく借りられました。一回の工事では、すべて改修することは時間的にも金銭的にも難しかったので、工期は何期かに分けて行っています。工房はだいたいDIYで直していたのですが、雨漏り改修工事の際の融資は金融公庫さんにお願いしました。
P:工務店さんの作業と並行して、DIYもされたのでしょうか?
家の主要部分や通り沿いの虫籠窓の復元は、しっかり職人さんにやって頂いて。自分は壁や床を塗ったり、タイルを貼ったり。友達や学生たちにも声をかけて手伝ってもらいました。壁を珪藻土にしたのですが、初めて塗るときに職人さんに教えて頂いて。みんなで一緒に楽しく塗れました。あと、アトリエの方は、木工事が得意な後輩の作家に手伝ってもらい内装の大部分をDIYしました。
P:家やアトリエのデザインはどうやって決められたのでしょうか?
家をどうこうするって、自分が作るものの中では一番大きなものなので、せっかく住むなら、全部は手掛けられなくても、自分も家作りに参加したいという欲求が昔からありました。空き家、古民家の改修はそれが出来るところが良いですよね。ですが、実際のところ、仕事はフルタイムで、残業もあって、家のための時間を取るのが大変で(笑)。夜中に大きなガラス扉に貼ってあった古いテープをひとり孤独に剝がしに来たり。それでも「自分でできるところは自分で」が家作りの際の要望だったので、熱意と勢いで乗り切りました(笑)。
デザインについては、前々から趣味で集めていた建物などのスクラップ集や、この建物に合わせて新たに集めたイメージを集結させつつ、無垢の木や既存の建具等を活かした家にしたいと思って。
工務店さんとの打ち合わせで、言葉で伝わらない部分はスクラップブックを見てもらったりしてイメージの擦り合わせをしました。
「自分でできるところは自分で」と張り切っていましたが、初めての家作りでわからないことが山盛り。家作りのプロ達の意見はありがたかったです。
母屋の可愛い三角屋根を活かして、天井ぶち抜きの梁見せ天井にしているのは建築士の渡邉さん(空き家バンク相談員)のアイデアですし、そうしたことでできたロフトに上がる階段や手すりは、もともとあったものを再利用して、工務店さんがリデザインしてくれたものです。施主のこだわりやわがままをうまく昇華して形にしてくださり、現代人の住みやすさと古民家の格好良さを活かした家になっていったと思います。
アトリエの方は建物の立地や素材の関係で間取りはあまり遊べていないのですが、こちらはほぼDIYなのもあって、より使いやすく、モチベーションのあがるアトリエを目指して今現在も進化中です。
P: この家の気に入っているところはありますか?
気に入っているところは、もともとある欄間とか古い既存の建具などを再利用して残せたところです。中でも床の間の書院の欄間がとても凝っていて素敵なのですが、その場所が真っ暗であまりにも目立たないので工事で裏に電球を仕込んでもらいました。今では、常夜灯として活躍しています。
今、新築を建ててもこの雰囲気を出すのは難しいことだと思うのでそれを残せたことが嬉しいです。小さいときから古民家を見たり町家に関する本を買って眺めたりするのが好きだったのですが、この家を決めてから「そういえば私って町家に住んでみたかったんだ」、と思い出しました。現代日本人が住んでも不便が無いようにはリフォームしていますが、ガチアンティークな町家に住むことが叶いました。