夫婦で暮らす
アイウエオ
カキクケコ
– 荒井家のお二人へ インタビュー –

出身は、栃木県さくら市。2016年にまずは、賃貸物件にて関東から尾道へ移住。現在は夫婦で二人暮らし。物件は、大正7年築、2022年で築104年になる海の見える古民家。
購入したのは2021年の9月。住み始めたのが2022年3月の末で、主要な部分は工務店さんに施工してもらい、残りは住みながらセルフリノベーション中。

「東京にいたとき、アパートは寝るための住居で。まず家にいる時間が長くなったのが尾道に来てからの一番の変化です。土日は散歩するか家にいるか。海岸通りから歩いて商店街の中を通って帰るみたいな。特別なことをしなくても良くて。ただ住むのが大変な面もあるのでそこは覚悟が必要だと思います。いつかは家の一部をパブリックにオープンしたいという思いもありますが、最近ずっと家のことで休みが潰れることがほとんどだったので、一端息抜きしたいですね。」

移住のきっかけ
P:どういった経緯で尾道に移住されたのですか?
出身は平成の合併の時にできた栃木県のさくら市で、宇都宮の北東あたりです。大学から東京に出て国際文化学部で外国語などを学び、そのまま就職しました。千葉や横浜で仕事をしていましたが、その時から尾道に行きたい気持ちはありましたね。はじめは尾道の方に支社がある会社に入って、3年とか5年とか勤めた段階で異動という形で住めたらなと考えていたと思います。今の仕事は、尾道に来るタイミングで船関係の地場の会社に転職して勤めています。移住する前に全部就職まで決めてから尾道に来ました。東京に民間の転職のサポートセンターがあって登録したのですが、思うような仕事が見つかったので利用はしていないですね。ネットのハローワーク求人で今の仕事を見つけて応募したような感じです。
2022年で30歳になりますが、尾道を知ったきっかけは、2012年、大学1年生の春休みに、友達と青春18きっぷで宮島に行く途中、広島の雑誌を買って読んでいたら尾道を見つけて。「ここ面白そうだし寄り道してみようかな。」と雑誌以外には何の前情報もイメージも無く訪れたのが最初でした。当時は千光寺行って、自転車に乗ってというような本当に定番のコースを巡ったと思います。ですがその時に、「景観が凄く良い町だな、また来たいな。」と思って。その後、自分で尾道のことを色々と調べるうちに、空き家のことや移住してきている人が多いという話を聞いて、「面白い町だな、いつか住んでみたいな」と思ったのがきっかけです。
尾道のことは、夫きっかけで知りました。もともと高校から地元が一緒で知り合いだったのですが、夫が尾道で賃貸住宅に一人で住んでいる頃に縁があって。以前の家が一人ではとても広く大分持て余していたときだったので、その頃に移住して一緒に住み始めました。
大学を出たのちに銀行で働いていたのですが、「やっぱり美術の勉強がしたい。」と思い、通信制の学校に通って勉強しました。でも、仕事が忙しく、なかなか通えなくなってしまったので、一年半で辞めて。その後、仕事を辞めたタイミングで改めて「自分は何がやりたいのか。」を考えました。家にいる時間が長かったのでweb系の勉強をオンラインでして、今はデザイナーとして、グラフィックやウェブデザインなどの仕事をしています。
P:尾道以外で検討していた街などはありますか?
尾道以外は検討していないですが、好きな町は函館。仕事で函館に1ヶ月くらい行ったこともあるので。
P:移住を後押ししてくれた尾道の方はいましたか?
尾道に移住する人だと、住む前から尾道の人と関係を持っている人も多い印象ですが、自分はそういうのは無かったですね。来てから色んな方と知り合っていったという感じで。ただ、音楽が好きなので、尾道ではコウガメさんの主催されている音楽のイベントのことは知っていて。仕事の面接を受ける時に、当時三軒家アパートメントにあったお店行ってカメさんと話していたら、「仕事見つける前に来れば良いじゃん。」と(笑)。移住してからも当時の住まいが三軒家のすぐ近くだったので、よくお店に行っていました。移住前ではないですが、きっかけにはなっていると思います。
空き家探し
P:この家に決めた理由はなんですか?

実際に移住したのは2016年。以前は別の賃貸物件のところに住んでいました。今となっては賃貸からのスタートで正解だったなと思います。いくら良い家で、景色も良いといっても、やっぱり坂の上の暮らしは生活するには大変で。先のことを考えると、自分が買って老後に手放すとなると、またそこを空き家にしてしまうことになりますし。立地的に坂の上は大変だという良い経験になったし、それが今の家を購入するときの大きな判断基準の一つになっています。

尾道で家を選ぶ条件は、海が見えること、そこそこ近くまで車が入れることでした。(車は最近できた隣の駐車場を借りている。)あとは雰囲気が良いとか古民家とか。それが結構高いハードルなので、希望購入金額とは開きもありましたが、「もうここしかない!」という感じで最終的には決断しました。

2016年に移住してきて1年賃貸のアパートに住み、その後山手の賃貸に5年住みました。その間ずっと「良い家があったらそこに住もう!」という思いで探していて、やっと見つけたのがこの家だったので。でも、状態が状態(雨漏りしていて構造から傷んでいる箇所があった)だったのでなかなか踏ん切りはつかなかったですね。

P:苦労したこと・不安なことはありましたか?

この物件は理想的な条件でしたが、ホームページに出ていた金額と購入希望金額には少し乖離があって。金額に関しては所有者さんと相談させて頂いたのですが、融資のところは大変でした。銀行時の経験が役に立ったということも特になくて。そもそも古民家に融資をするということがほとんど無いので。関東よりも尾道の方が古民家改修に対する銀行さんの理解はあったと思います。古民家かどうかについてはそれほど重要視されていたわけではなくて、融資できるかどうかは、立地とか法律関係とかの話でした。尾道市も独自に二項道路の扱いがあって、その辺を銀行に行って説明しましたね。苦労はしましたが、リフォームローンではなく、住宅ローンを組めました。

普通には建物が道路に接道していないので、土地に価値がそこまで無く、ローンを借りる時に、不動産屋を通さないと融資が下りないという話になったので、少し余分に費用がかかりましたが、以前にお世話になった不動産屋さんに登記や測量等をしてもらいました。それから建物の耐久力。今も多少怖さはあります。浄化槽はほぼ新しいモノに取り替えました。あとは、工事を開始して蓋を開けてみたときに、業者さんに出して貰った見積もりがどれだけ増えてしまうのかというのも不安でしたね。
災害のことも考えました。土砂災害に関してはやっぱり怖さはあります。一応ハザードマップからギリギリ外れているのでそこを「信じるしかないのかな」という感じです。

P:では、新築するなどの考えはありましたか?
DIYでの古民家改修は元々全くやっていなかったですが、新築という考えは無かったですね。地元が田舎でこういう感じの古民家があったというのもあるのかもしれないですが、当時は自分の中でそんなに「古民家が好きだ!」という感じではなかったです。でも、「神社とかの建築は良いな。」というのは漠然とあったと思います。今思い返すと、大学で国際系の勉強をして、半年イギリスに留学にも行ったのですが、それから帰ってきて改めて「日本の建築が良いな。」と感じました。結構休み取れた時期に、日本国内も色々と旅行に行っていますが、海外も色々回って。ネットで豊田さん(空きP代表理事)のインタビューを読んで、イタリアのチンクェ・テッレにも行きました。何か尾道に似ているなというのを思ったりもしたので、そういうのも関係があるかもしれないです。
リノベーション
P:この家の気に入っているところはどこですか?

気に入った場所は2階からの景色。畳も好きなので、ベットのところはフローリングにしましたが、居間としての畳のスペースは残したかったです。
照明はこだわって探しました。それからキッチンの腰壁はリノベ前の洋室のデザインを踏襲しました。工務店さんには、「オリジナルのデザインを残しながら改修して欲しい。」ということを希望しました。これを参考にしたという建物は無かったですが、ちょくちょくインスタグラムなどで建物を調べて「こういうデザインは良いな。」というのは保存して何となく参考にしていました。

趣味の部屋はもともと持ちたかったですね。作ることができてよかったのですが、一個失敗したなと思うのは、一番お隣さんに近い部屋にしてしまったこと。逆側にすれば、隣家からの距離があるので、もっと音量を気にしなくて良かったのかなと。あとは、階段のところを無垢の木にしたかったというくらいが妥協点です。

デザインは「夫にお任せで大丈夫だな。」と思っていましたが、私は清潔でいられるかというのが重要でした。元々2階の寝室の天井無しにするという案もありましたが、埃などを掃除する時の問題が解決されず。「将来子供ができたときの環境は大事にしたい。」、「古民家でも綺麗な家にする。」というのは譲れなかったので、天井は新しくしました。

P:業者さんはどうやって探しましたか?
初めにこの家の内見をしたときに工務店の方も一緒に来てもらって。工務店の方が「出来ますよ。」という判断をしてくれたので自分達はそれを信じてついて行くという感じでした。ネットで古民家を扱っている工務店を探して、実際に二つの業者さんと話をしました。1軒目は、在来工法などの伝統をとても大事にされていて良かったのですが、写真を見せた時点で「もしこれを本気でやるとしたら金額がすごいことになりますよ。」と言われてしまって。それで、2軒目の方が「なるべく抑えてできるように相談しながらやっていきましょう。」と言ってくださったので、そちらにお願いすることに決めました。相談に行く度に「ここはどうしますか。」ということを聞いてくれて、自由に柔軟にやってくださったので助かりましたね。
P:リノベーションで苦労したところは?
壁塗りなどを一部は自分たちでやっているのですが、「リノベーションにどこまで関わるか。」というのが、はじめは規模感がわからずに苦労しました。それからやはり工事を始めてみた後で、わかったことがたくさんあり。例えば、湿気の問題で、それを解決するために一部追加工事でコンクリートを敷いてもらったりしましたね。
P:何か補助金は利用しましたか?
最初に空き家相談会にお邪魔したときに、「まちなみ形成事業補助金」のことを相談員の渡邉さんから聞きました。それが決め手になったわけではないですが、使えるんだったら大助かりということで、渡邉さんに色々とやってもらってという感じで、補助金は主に外壁や屋根、建具の修繕に使いました。
必ずやりたかった場所として、2階に元々窓が無かったのでそこに木製建具を入れるということは絶対条件でした。元々波板だけ張ってあって、そこを外したら障子しかなかったので。木製建具でお願いしたいという話でしたが、あまりにもアルミサッシと木製で予算に違いが出るので、全部トータルで考えた時、はじめは「予算がこれくらいなら難しいです。」という感じでした。それで、最初の見積もりからアルミサッシで見積もりが出てきたのですが、「それでも何とかできませんか。」と、「他のところを抑えてでも木製でできませんか。」という希望を出して、工事直前くらいに「これくらいの金額なら木製でやりますけどどうしますか。」という話があって、それでお願い出来ました。これは本当に出来て良かったです。
尾道のこと、移住に関するアドバイス
P:実際に住んでみてどうですか?

2022年の4月から住みながら改修しているので今、半年くらいになります。良かったところは、家にいるのが心地よいところ。猫はこの家を契約した9月くらい、以前に住んでいた家の前で出会いました。台風が来る日に家の前でニャーニャー言っていたから、台風の一晩だけかくまってやろうと思っていたのですが、結局お世話することになって。多分まだ2歳くらいだと思います。

夏は暑かったですね。まだ網戸が無い部分があったので、自分で付けたのですが動かない網戸で。2階もいずれは付けようと思っているのですが、まだ無いので二階がすごく暑い(笑)。天井裏には断熱は入れたのですが、日がよく当たるので暑い。40℃くらいまでになっていると思う。冬も寒くて外と一緒だなと思ったりします。(笑)

P:周辺環境はどうですか?
近所の人はみんな優しいです。そんなに交流があるわけでもないですが良い方ばかりで。町内会長さんにもお世話になっています。資源ゴミの回収の日に朝から集まっているので、その時に知って貰えた感じがします。若い移住者の方もいます。
P:移住前と比べてどうですか?

(夫:)
東京にいたときは仕事もそれなりに遅くまでやっていたので、ワンルームのアパートは寝るための住居で、料理することもほとんどなく。まず家にいる時間が長く取れるようになったのが尾道に来てからの一番の変化ですね。

(妻:)
実家からこちらに来ているのですが、家で色々やりたいことが増えたというのは栃木にいた時との違いです。でも、賃貸物件の方に2年住んでから、という感じなのでそれとも色々違いますね。尾道の悪いところは、虫。色々やっても出るものは出ます。まだ二人ともムカデにはかまれたことは無いですけど。あとは、気温で言えば栃木の方が寒いのですが、家の断熱の問題で尾道の方が寒い。(笑)

P:どんな方にオススメですか?
自宅からの眺めや町並み、景色の良さに価値を見いだせる人。僕たちは移住者の中では交流は少ない方だと思いますが、そういう交流を楽しめる人は移住にオススメだと思います。
自分達は土日散歩するか家にいるか。海岸通りから歩いて商店街の中を通って帰るみたいな。特別なことをしなくても良い。ただ住むのが大変な面もあるのでそこは覚悟が必要だと思います。