地元出身のご夫婦。結婚を機に旧空き家バンクの制度を利用し、コンパクトな賃貸物件に居住。息子さんが小学校に上がるタイミングで、子供部屋を作ることを考えた時に、「もう少し大きい家がいいな」と移住を考えた。小学校の学区が変わらないところで空き家を探すという条件のもと、「今のような賃貸ではなく、購入して、しっかり直して住もう」と決意。近所に住んでいたので、住み替えの感覚で物件を購入。
「山手の斜面市街地は、眺めが良くて静かで、鳥の鳴き声も聞こえる場所です。長く暮らしていると当たり前になってしまうから忘れてしまうこともあるけど、この暮らしやすさは貴重なことだな。ということは沢山あります。こんな環境なのに、5分も歩かないで町の中心部に行けるロケーションの良さ。大変なこともありますがそれを補うだけの魅力があるんじゃないかと思うし、そういうのにもっと沢山気づいて欲しい。だけどみんな気づくと隠れ家的な要素がなくなってしまいますね。(笑)」
P:賃貸物件から、物件購入へ至った経緯は、何だったのでしょうか?
結婚したのが2003年、今で山手暮らし20年目くらいです。息子が来年から小学生という時に、前の家で「どこを勉強部屋にするか」と考えた時に、「ちょっと手狭だよね」と。人生のステージが変わったと感じ、本気でまた家を探そうということになりました。当時はもう空きPが空き家バンクを管理していたので、空き家バンクに利用者登録してから数ヶ月でいい家が見つかって。前の家と距離が近く、大きさ的にも良さそうな家でした。それで、間取りも見させてもらって、3階建っぽい形をしていてが「面白そうだね」となって、ここを借りるか買うかの話をしてみようと。大家さんが空き家バンクに登録した経緯は、親族で使わなくなった後に、賃貸に出していたのですが住んでいた方が出たので、もう売りに出そうとなったみたいです。とにかく、草刈りなど管理するのが大変ということだったみたいです。
P:当初から新築ではなく、古民家を探されていたのですか?
今の物件が出る前に新しい家を探すというときは、買うつもりでいました。その時(2011年)には尾道ゲストハウス「あなごのねどこ」のリノベーションを見学したりしていて、面白そうだとも思っていました。リノベをやるならしっかりとやってみたいと思っていて、賃貸だと思い切ったことができないため、購入かなと思っていました。新築は全く考えていなかったですね。
P:物件の購入はスムーズに行えましたか?
この家を購入することになったのは息子が6歳になる年、年長さんの秋くらいに法務局に行きました。登記に関して、所有者さんがあまり業者さんを通して手続きをしたくないという要望があったこと、思ったより費用がかかりそうなこと、一度お願いした業者さんがお客さんに認知症が始まっているという理由であまり乗り気でなさそうだったことなどがあり、だったら自分でやってみようと。法務局に行って、そこで色々書類を用意するように言われ、ネットで調べたりしながら作って何度も持って行きました。納税や資産価値や、どういう風に売買するなどの書類があり、売買契約や権利移行の話などです。調べれば一般の方でもできると思います。所有者さんにも書類を揃えてもらう必要があるので、委任状を作ってこちらからお伺いしたりもしました。委任状と登記原因証明情報と住所移転申請書、売買申請書、所有権移転など。自分でやって良かったと思っています。
P:車や駐車場はどうされていますか?
車は所有していて、駐車場については、前の家を借りる時に決めました。長江通りのところに張り紙が出ていて、そこに連絡して借りました。たまたまその方が地域の顔役みたいな人で、結果的に良かったと思います。口約束だったので、敷金礼金無しで借りられたのも良かったですね。
P:所有者さんとはどういったコミュニケーションをとっていますか?
古民家だと、修理箇所やメンテナンスが多く発生して、その度に大家さんにはお世話になっていました。だから、所有者さんとの季節のやり取りは欠かさないようにしています。お中元お歳暮年賀状、出せるときは暑中見舞いも。できるだけやり取りを続けて風通しをよくしていたら、何かあったときには話がしやすくなります。やり取りは大事ですね。駐車場もそうで、毎月お金を渡すときに一筆手書きでメッセージを書いたりしていたら、その駐車場が使えなくなった時は、他のところを紹介してくれました。そこでも駐車料金を考慮してくださったり。この辺りは駐車場が少なく料金も高いことが多いので。
P:空き家バンクの良かったところはありますか?
家については、一般的な不動産情報サイトも見ました。色んな所に連絡しましたが、新婚ということもあり、当時は「なぜそんな変な所(斜面市街地)に住みたいの?」と凄い怪しまれたのを覚えています。駆け落ちとか訳あり夫婦だと思われていたんじゃないかと(笑)。物件は全然無かったですね。でも、訳ありそうな物件とか、普通に5~6万で中途半端な住宅に住むのもでは面白くないと思って。若いし将来的にお金を貯めるとなった時に、固定費を削るのは大きいし、安いところに住もうという考えになりました。そうしてまた不動産屋に行ったら怪しまれ(笑)。その点空き家バンクはそういうことがないので良かったですね。
※森田さんの入れてくれる珈琲が美味しい。今日はタンザニア。焙煎もご自宅でされている。ずっと同じモノだと焙煎していて飽きてくるということで、何種類か豆を買ってストックしているそう。
P: この空き家を選んだ決め手は?
築年は、離れが明治42年、母屋で新しい方が昭和43年です。湿気はないことですかね。職人さんに見てもらった時も、「ここは山手なのに珍しく湿気が無くてここ良いね」と言われました。そして決め手は、息子。勘が鋭い子なので、見てもらった上で、「この家は良いねと」いうことで決めました(笑)。
古民家を選ぶなら見た目も可愛い方が良いなと思っていました。大体こういう古い家は中途半端なアルミサッシに変わっていたりしてそれが嫌だったので。この家は窓など木製建具が残っていて、気に入ったんです。昭和初期築と思われる古民家部分と昭和中期築の比較的新しい家屋の部分があり、古民家の2階と新しい家屋の1階とが繋がっていて、斜面地に建っている3階建てに近いような感じで形が面白い。職人さんに屋根や外壁を修繕してもらい、その後はセルフリノベーションしたが、当時はサポートメニューで新田くん(空きPスタッフ)らに、手伝ってもらって凄く助かったので感謝しています。
P:災害などのリスクは、どのように考えられていますか?
以前、尾道は普段あまり雨が降らなかった地域だったので、前の家に引っ越した時はゲリラ豪雨という言葉も聞いたこともなく、災害のことは全く考えていませんでした。西日本豪雨の2年前にも豪雨があり、その頃から防災意識を持つようになりました。そして、西日本豪雨の時に、前に住んでいた家の横の斜面が崩れたんです。その時はもう今の家のリノベも進んでいたので、急いで引っ越そうということに。崩れたのは朝の6時30分くらい。出勤時5時のタイミングでこの降り方は尋常じゃ無いとなり、「危ないから安全な場所に避難しよう」と家族も一緒に出ました。昼前になったら雨が上がるから大丈夫だと思っていた。その後7時くらいに仕事場に町内会長さんから電話がかかってきて、家の隣が崩れていることを知らされました。その後は、あなごのねどこ(空きP運営のゲストハウスで災害時には避難所になっていた)にもお世話になりました。
崩れた空き家は、もともと毎年親戚が来て崖のところを草刈りしていましたがそれをやめてしまって。その後2年くらい経ってから崩れたので、やっぱり管理が一番大事なのかもしれないですね。近所にある別の場所は、毎年草刈りして手入れされていてそっち側は無事だったので。
P: 補助金などは活用されましたか?
移住するときに市の補助制度は使わせて頂きました。豊田さん(空きPスタッフ)がこんなのがあるよと教えてくれて、空き家改修補助的なやつで30万円ほどでした。色々周りからアドバイスをもらったからこそ上手くいったということも多いですね。
P: 業者さんとDIYの棲み分けはどのようにされたのでしょうか?
リノベーションをする上で不安だったことについて、古い方の雨漏りがあって、天井が半分くらい崩れていました。そして前に住んでいた人のゴミが大量に残っていたこと。周りも森のようになっていてが凄かったです。
空き家相談会に行って、渡邉さん(空き家バンク相談員)に「どういうことが出来るか?」ということから教えてもらって助かりました。例えば、フローリングを無垢にしたことや外壁は焼き杉にしてみようかなということなど。外壁に張っている焼き杉は、工場で生産されているものと三角工法では違うので、三角工法でやっているところを調べて見つけてお願いしました。
自分たちで出来ないことは屋根と外装なので、そこは業者さんにやってもらいました。屋根、外壁、電気、水道など、自分たちで調べたり友人経由で別々にお願いしました。でも、建築士や工務店に頼まず、全部それぞれ自己発注でやりました。Todoリストアップを凄くやりましたね。(笑)特にガスはプロパンなので、色んなところに電話したら山手だからと断られることも多かったです。けれど、とにかく最初は個別に連絡、あたって砕けろという感覚、まず聞く、とりあえず聞くをずっとやってきました。
玄関の建具は、妻の妹が紹介してくれた業者さん。大林監督の映画のセットも作っていた方で。家の中の建具をお願いした業者さんは近所の良い玄関があるところに、「素敵な玄関ですね、どこでやってもらったんですか?」と聞いて、紹介してもらいました。
P:実際にDIYをされてみてどうでしたか?
結局買ってから6年、正確に言うと息子が入学直後に買って、そこから1年は掃除しただけで満足してしまいほとんど手を入れず。2年生になった時に、あっという間に1年経ってしまったことに気づきやばいと思い(笑)。そこから真剣にやり出しました。その時は繰り返し作業の過酷さやこんなに長いことかかるとは思っておらず、見通しが甘かったと今では思います。買ってしまった上にリノベを始めてしまった以上は引き返せないという思いで土日はリノベを頑張って、月から金は仕事。仕事は肉体作業ではないので、デスクワークで身体を休め、土日はモノ運んでガッツリ動くという感じ。DIYをやめてから身体が小さくなったと思うので、良い筋トレにはなっていました。基本的にはリノベは全然妥協しなかったですが、手が回っていない箇所はまだ残っているので、これからメンテナンスも含めてやっていきたいですね。
結局買ってから6年、正確に言うと息子が入学直後に買って、そこから1年は掃除しただけで満足してしまいほとんど手を入れず、2年生になった時に、あっという間に1年経ってしまったことに気づきやばいと思い(笑)。そこから真剣にやり出しました。その時は繰り返し作業の過酷さやこんなに長いことかかるとは思っておらず、見通しが甘かったと今では思います。買ってしまった上にリノベを始めてしまった以上は引き返せないという思いで土日でリノベを頑張って、月から金は仕事。仕事は肉体作業ではないので、デスクワークで身体を休め、土日はモノ運んでガッツリ動くという感じ。DIYをやめてから身体が小さくなったと思うので、良い筋トレにはなっていました。基本的にはリノベは全然妥協しなかったですが、手が回っていない箇所はまだ残っているので、これからメンテナンスも含めてやっていきたいですね。
P:DIYでリノベーションして良かったことはありますか?
痩せるし運動になります(笑)。大変だったけどやって良かったと思うのが、人任せにしていた部分が色々分かるようになると、ありがたさがとても分かるようになる。
例えば、家は自分の今までのイメージでは真四角まっすぐというものでしたが、実際に自分が触って色々やってみると、真四角ではないしまっすぐでもない。真四角ではないけど真四角なように見えるようにしているとか、まっすぐではないけどまっすぐなように見えるようにしてくれるといった工夫があって。それをやることの大変さや、そういう感じなんだなと理解できたということが自分にとっては大きかったです。
他の家や店舗に行ったときに、仕上げ面の裏側やコンセントの付け方など、どういう方法で、何でそこに付いてるのかって思うと見えるところも変わってきます。そういう風に何でもやってみると、全然自分が興味持っていなかったことで知らなかった世界が広がるということは大きいですね。それから、できることとできないことの差が分かるようになる。ここからはプロに任せようという感じ。職人さんの技術に気持ちよくお金を使えるようになれました。
P:斜面市街地の大変なところはありますか?
実際に住んでみて、生活する上で山手の不便さは感じます。お米や灯油や買い物をしたものを運ぶ、またゴミ捨ても大変。プラス面で見れば、生活面の必要な作業が軽い運動につながっていると思う。周りのお年寄りがみんな元気で、80歳過ぎた方も杖無しで斜面を上がっていきますよ。ムカデなどの虫が出ることもマイナス。けど、やっぱりゴミ出し。草刈りなどすると大量に出るので特に大変ですね。
P:町内会やご近所さんに関してはどうでしょうか?
町内会には入っていて、今の町内会は、5,6班ありますが、実質1人のような班もあります。まだ班長はやっていないのでなんとも言えないですが、そんなに仕事は多くないですね。
P:どんな方が尾道移住にはお勧めですか?
観光客の人たちが喜んで見に来る景観や魅力に思うところは、住んでいるとだんだん分からなくなる。でも、それが贅沢なことなのだろうなと思います。わざわざ休日に来るところに日常的にいられるということ、景色はもちろん、町の大きさもちょうど良いですよね。空気が汚れるほど町が大きいわけでもないし、日常の暮らしに困るほど田舎では無いし。
あとは仕事が安定していれば移住もしやすいという面も。リモートワークもあるので、そういう人は尾道に住むと良いのではということもあります。仕事さえ何とかなれば住環境はちょうど良いですね。
当時はDIYをやっている人って時間に自由な人が多くて。自分のような勤め人で時間に縛られている人間ができるのかなということにも興味がありました。自分ができたのだったら空き家再生する人の裾野がもっと広がるような気がして、「サラリーマンでもできました!」というような感じです。
山手の斜面市街地は、眺めよくて静かで、鳥の鳴き声も聞こえる場所です。この辺とかもほとんどバイクすら上がってこないから、近所で騒音が気になることも無い。(自分たちは長く暮らしているので)凄く当たり前だから忘れてしまうこともあるけど、この暮らしやすさは貴重なことだな、ということは沢山あります。
借家時代の大家さんが言っていたのは、「マンションに移って自然の音がきこえなくなった」と。風の音であったり鳥の鳴き声であったり、そういう音が聞こえてたのが、マンションでは何も聞こえない。今はどんな鳥が鳴いてるのかと聞かれたこともありました。
鳥の声がとてもよく聞こえるので、野鳥にも興味を持って野鳥の本とかも読んだりして、鳴き声で鳥が分かるようになりましたよ。NHKの大河ドラマでも鳥の鳴き声で季節を表しているのかということにも気づいたり。
住むまでは尾道に梟がいることも知らなかった。アオバズクという小さい梟の囀りが夜になると聞こえ出します。鳴き声の違いが分かってくると「アオバズクが泣き出したからそろそろ初夏だね」とか。それから冬になると漁船の音が良く聞こえるようになってきます。尾道水道を明け方に通る漁船の音が、空気が澄んでいるから音がよく届く。漁船の音が聞こえると冬が来たなと感じます。暮らしと季節が凄く近いというところも良いところではありますね。
こんな環境なのに、5分も歩かないで町の中心部に行けるロケーションの良さ、なぜみんな見向きもしないのかと不思議に思います。大変ですがそれを補うだけの魅力があるんじゃないかと思うし、そういうのにもっと沢山気づいて欲しい。だけどみんな気づくと隠れ家的な要素がなくなってしまいますね(笑)。